【実話】雪降るなか、車内で
雪がちらつき始めていた。
遠くに見える山は白く、雪国へ近づいてきたことを実感させる。
「もうすぐですかね」
「そうだね、そろそろ新潟だ」
数年前の年の瀬、私は会社の先輩達3人と車を走らせ、新潟まで向かっていた。
毎年数人で新潟のスキー場へ遊びに行っている、恒例の日帰り旅行だ。
道路の空いている深夜に関東を出発し、5〜6時間かけて車で向かう。
そして朝方にスキー場に到着して、そのまま1日中遊ぶという、なかなか過酷な旅路である。
「うーん......やばい、眠くなってきたな」
運転席の川上という先輩が、大きな欠伸をしながら言った。
道中は交代しながら運転していたが、深夜に車を走らせているのでどうしても眠くなってしまう。
じゃあ、と私が切り出す。
「眠気覚ましに、みんなで何かのテーマで話していきますか?」
私は助手席から、後部座席に座る福田と新井という2人の先輩へも提案する。
「おっ、いいね!」
「よし、どんなテーマにしようか」
福田さんと新井さんも乗ってきた。2人もちょうど眠くなってきていた様子で口数が少なくなってきていたところだ。
「それじゃあ...... 失敗してしまった話、というのはどうでしょう?」
と、私は提案する。これなら誰しも手頃なエピソードがあるだろう。
うーん、そうだなぁ、と車中の4人全員でエピソードを考える。
するとすぐに福田さんが手を挙げて、じゃあ俺から、と話し始めた。
この日のような寒い冬のこと、福田さんは飲み会の帰り道だった。
暖かい居酒屋から一気に身体が冷やされ、凍えながらも駅へ向かっていた。
その時、突如として猛烈に腹が痛くなってきた。
これは、やばい。
直感的に、胃腸の限界を感じ取ったという。
お腹も冷やされたことにより、並大抵ではない便意が押し寄せてきたのだ。
コンビニにはトイレがある、そう思いコンビニを探す。
しかし近くにコンビニが見当たらず、福田さんはあたりを彷徨うことになる。
冬の冷気にどんどん身体は冷やされていき、それに比例するように便意は増していく。
そのなか、コンビニの看板が目に入る。
やっと見つけた......!
と、気を緩めたのがいけなかった。
「つまり、まぁ、漏らしちゃったんですよ......大きい方を」
一瞬の静寂の後、爆笑に包まれる車内。
結構なレベルの失敗エピソードきたな。
「ちなみに、それって何歳くらいの話ですか?」と私が尋ねる。
「あ、ちょうど30歳くらいだな」
ゴリゴリにいい歳した成人男性の漏らしエピソードだった。
しかし、その話を聞いて、新井さんも続く。
「それでいうと俺も30歳の頃......」
と、話し始める。
こういう話で、それでいうとで続くことある?
まだ、暑い夏の日のこと。
新井さんは友人達と海に行っていた。
あまりにも暑かったためカキ氷を食べていたところ、猛烈な激痛に見舞われたという。
「え、まさか、またそういう話ですか......?」
私は遮って聞くが、新井さんはそのまま続ける。
場所は海だったため、仮説のトイレがいくつかある。
しかしそこは人気のビーチだったため、どこも長蛇の列が出来ていた。
「つまりまあ、並んでいる間に、漏らしちゃいました。大を」
最悪なエピソードの確変入ってる?
大分車内は暖まってきた。運転手の川上さんはすっかり目が覚めているようだった。
そこで、「そういえば俺も30歳になった時......」と川上さんが切り出す。
「えっ、川上さんもあるんですか!?」
もう、これは、絶対漏らしエピソードだ。
漏らしの3連チャンだ。
年末年始に川上さんが実家のある田舎に帰り、近所を散歩をしていたところ、猛烈な便意に襲われたという。
「もう、便意に襲われるきっかけも特にないですね」
私が突っ込むも、川上さんは続ける。
近くのトイレを探すも、そこはコンビニすら無い田舎。トイレなどもあるはずがない。
実家へ戻ろうと急いで帰る。
一歩一歩がなるべく刺激にならないように、静かにかつ歩みを進める。
しかし、道端のちょっとした凸凹に足を引っ掛けてしまう。
「それで、まぁ、うん。そういう感じで漏れちゃったな、俺も」
雑な漏らしエピソードだな。
ちなみに、先輩達は当時全員30代で私は20代前半だった。
「なんでみんないい歳して漏らしてるんですか......」と私が呆れていると、
「お前も、30代になったらあるぞ。覚悟しておけ」と言ってきた。
全然いらないアドバイスきたな。
それから時が流れ、今では私も30代になる。
雪が降るたびにこのことを思い出す。
しかしまだ「その日」は来ていない。
っていうか来ないで欲しい。
▼他の先輩の話▼